高校二年と三年のクラスメートで、大好きな女の子がいた。今も1番親しくしている。
彼女はいつもマイペースで他人の目を気にせず媚びたところが少しもないように見えた。彼女は毎日堂々と遅刻し、出席簿の遅刻を堂々と消し、そして毎日早退した。男っぽい体つきの細すぎるほどの女の子だった。
修学旅行の時まわりがふざけて彼女をBくんとくっつけた。彼女が男に興味がないという顔をしていたので、ふざけてやったんだと思う。私は参加しないで見ていた。それで彼女はBくんとつきあうようになった。最後まではいかなかったがすぐにそういう関係になって、聞かれるままにこうだったああだったと教えてくれた。変に隠したり照れたりせず、聞かれた事を淡々と、別にどうでもいい事のように答えるので、私は彼女に尊敬を感じた。
あとで聞いた話だが、当時彼女は親の期待に対する重圧に苦しんで、何もかもどうでもいいと感じていたと言う。姉は慶応、兄は防衛医大なのにお前一人勉強が出来ないと、いつもののしられて傷付いていたのだとか。お兄さんになかなか彼女が出来ないと言うので、私は彼女と親しくなりたくて、お兄さんを紹介してと言ってみた。でも彼女はブラコンで(お兄さんの写真を持ち歩いていた!)本心はお兄さんに彼女が出来ない方がいいと思っていたようだ。だから紹介してくれなかった。ちぇっ、かなりカッコよかったのに。
再会したのは24の時、私が結婚したのを知らせた。彼女は変わっていた。ものすごく女っぽくなっていて、投げやりな感じが少し抜けていた。それから彼女とは頻繁につきあうようになった。私達はどこへ行っても姉妹?と聞かれた。顔は似ていない(彼女は美人)のだが、だるそうな雰囲気がそっくりだと言われる。
彼女はその時不倫をしていた。
相手は10くらい年上で、前の会社の上司だった。私は彼女のように誇り高い精神の持ち主が不倫なんかするんだとびっくりしたが、彼女は重大な事とは考えていなかった。年上はお金もあるし優しいし、楽しいのでつきあっているだけだと言った。
彼女は自分からはあまり自分の事を話さないが、聞けば何でも答えてくれる。私は彼女の正直さが大好きだった。
私が家を建てたばかりの頃、彼女の両親がいなかに引っ越す事になり、彼女は会社を辞めて田舎に行くか、一人暮しをするかの決断をせまられた。彼女は何も出来ない末っ子だから心配だと言って、両親は一人暮しに反対だった。私はうちにおいでよと誘った。家賃もいらないし御飯も出すよと提案した。彼女は迷っていたが、結局叔母さんのやっていた学習塾が週二以外あいているので、そこに住む事になった。だが、週末にはうちに泊まりに来た。毎週金曜日の会社帰りにうちに来て週末滞在し、月曜日の朝会社に行ってそのまま家に帰るという暮らしが、二年ほど続いた。週末だけは家族のように過ごした。(不倫者は土日がヒマらしい)
私は彼女が来てくれるのが嬉しくて、夫の為には絶対やらない料理を、彼女の為だけにいそいそとしてしまう。彼女はオヤジとつきあっていたせいか、和食好きだった。やったこともない焼き魚や、煮魚、煮物、きんぴらなどをつくって、私は金曜の夜を心待ちにした。料理は苦手だったが、その時だけは本を見ながら一生懸命つくった。あまり上手に出来なかったけど、彼女は喜んでくれた。
彼女が大好きだった。彼女の為に何でもいいからしたかったが、私が役にたてるのは食事を提供する事くらいだった。
彼女は毎週うちで、オヤジのように魚をつつきながらビールを飲み、新聞を読んだ。私はまるで彼女の週末妻のようだった。
彼女が話してくれる不倫の関係は、私には大人の世界という気がした。私にとっては不倫というとY先生しか思い浮かばず、神聖で侵し難い存在だったので、彼女の割り切った態度は到底理解できなかった。私は自分の打算的性格のおかげでY先生と不倫にならずに済んだと思っている。私の未来が台なしになるとわかったからだ。だから気持ちを切り替えて、生身の男から遠い崇高な人に昇格させた。でも彼女は不倫で自分の価値が下がるとは思っていなかった。私にはないその潔さに憧れた。
そのうち相手は離婚して、彼女は結婚を申し込まれた。
私はおめでとうと言った。でも彼女は不機嫌だった。いきなり二人の子持ちになる気はない、結婚はしない、もう別れると言って怒っていた。
もし私だったら、不倫してもいいと思えるほど大好きな人が離婚して結婚を申し込んでくれたら、ありがたく結婚していただくと思うと言うと、それほど好きだったらね、と嫌そうに答えた。
「そこまで好きだと思える相手はなかなかいないでしょう、翡翠だってそこまで好きで結婚した訳じゃないでしょ。結婚するのに妥当な、真面目で稼ぎそうな男だったから結婚しただけでしょ。私だって同じよ。結婚は別の人とする。もっと条件のいい人と」
そう言って次の週には年下のエリートと結婚を決めてしまった。確かに彼女の言う通りだと思った。私にとっても結婚は、好意とは別に条件が大事だった。 それからしばらく彼女はうちに来なかった。年下の彼と週末を過ごしていたのだろう。一年くらいして彼女は年下の彼と結婚した。
せっかく離婚したのに彼女に捨てられてしまったおじさん、「かわいそうじゃない?」と聞くと、彼は自分と結婚するために離婚した訳ではない。自分がいなくても離婚していたはずだと言った。
「その人の事を好きじゃなかったの?」と聞いた。すると
「好きだったよ、似たもの同士だったし。人生楽しければ何も深く考える必要はないって感じだった。私もそう思う。でも彼の奥さんは鬱陶しいほど彼を束縛しようとしたんだよ。だから離婚されたんでしょ。私のせいじゃないわよ」
吐き捨てるように言った。昔は好きだったかもしれないが、もう今は嫌いなんだなと言い方でわかったので、それ以上聞くのはやめた。
年に3〜4回しか会わないが、私は今でも彼女を好きだ。
彼女がお金がないから仕事を紹介してというので、何も役に立たなかったがパソコンのアシスタントに来てもらったり、突然何か食べさせてと訪ねて来ても、喜んで迎えた。
結婚した今も、彼女は突然うちに来る事がある。今から行くねと電話があると、私は条件反射ですべての用事をキャンセルしてビールと魚を買いに行き、彼女を待ってしまう。
好きな人は年々増えて行くばかり。一度好きと思うと嫌いになれないから。でもその中でも本当はちゃんと順番があるのかもしれない。実際のところ、今は昔感じたほどには彼女を大好きとは思わないんだけど、なんとなく癖で、彼女のお願いは100%聞いてしまう。
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