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恋愛エッセイ心の傷




大人の恋愛に
切り離せない性と愛



絶体絶命のピンチ


高校は第1志望に落ち、グループ合格で都立M高校に行った。のちに女子高生コンクリート詰め事件の犯人を排出した最低レベルの高校だ。

つまり私は劣悪な環境から、まだ抜けられずにいた。

一応習熟別クラス編成だったのでクラス内はまともだったが、普通の8クラスは荒れ果てていた。

10組には、男連合の主要メンバーだったIがいた。彼は中学ではYとMに頭上がらず、あっちにもこっちにもよい顔をするコウモリ男で、不良女子にも調子よくあわせていたので、私を輪姦す気もあったようだ。おそらくYに止められて頭に来ていたと思う。

私の事は育ちがいい優等生だと思っていて、中学の間は「お嬢ちゃん」と呼んで馬鹿にし、ことあるごとにちょっかいを出して来ていたが、わずかながらの遠慮があった。

それが高校に来て、YもMもいなくなり天下をとったような顔でふるまうようになった。IにはYやMのような男気はなく、リーダーになれる器じゃないのは明らかだったが、男連合の名で手下を集めて威張りくさっていた。

そればかりか、私が同じ高校に来た事で、私を育ちもよくないし優等生でもない自分と同レベルの人間と決めつけ、あからさまに態度を変えた。

中学までは慇懃無礼な態度だったのが、ちんぴらそのものになり、廊下で待ち伏せしては、お高くとまってんじゃねえよ、とか、どうせ誰にでもヤラせているんだろう、とかお決まりのちんぴらセリフで私を貶めた。

私は学校の行帰りさえ気をつけておけば大丈夫と思い、必ず誰かと一緒に登下校していたが、放課後は生徒会のゲストとして、時々残らねばならなかった。この高校にはまともな人間が殆どいないので、次期生徒会役員候補となる新入生を、1年のうちから生徒会に取り込むのが慣習になっていて、入試の点数のよかった上から2人が生徒会ゲストとなった。

ある日、生徒会長からの伝言で、今日の放課後、臨時のミーティングがあるから生徒会室に集まるように言われた。

もう1人のゲストは隣のクラスの男の子で、つきあいがなかったので、私は仕方なく1人で生徒会室に向かった。

生徒会室に着き、まだ誰も来ていないと思ったら、Iが手下2人を連れてニヤニヤしながら現われた。私はまんまと罠にハメられたのだった。

生徒会室は通常、鍵がかかっていて開かないはずだった。ということは、生徒会の誰かがグルになったか、脅されたかしたということだった。私はすかさず逃げようと試みたが、入り口は2人の手下に塞がれた。私とIの間には机が1つあるだけだった。

素早く頭をめぐらせたが、回避する術も見当たらないまま、Iの下品な言葉を聞き流していた。

とりあえず時間を引き延ばして、その間にどうするか考えようと思い、Iの会話に返事をしたり、何か聞いたりしてみた。促すとIは、YとMについての憎しみを露にし始め、昔の事をあつく語り出した。その間に私は徐々に入り口に近い方へ移動しながら、まだどうすればいいか決めかねていた。

Iは2人の手下を外に出したが、ドアの前で見張っているはずだ。仮にここでドアまで辿り着いても、男3人の腕力に適うはずもない。

何か突破口はないか、そればかり考えているうちに、Iは話を終えて私に近寄って来た。

抵抗しなければ、自分だけで許してやるが、抵抗すれば外の2人にもやらせると言う。会話の中から、どうやらIが本心では私を独り占めにしたいらしい事がわかったので、多少抵抗しても外の2人にはやらせないだろうと思ったが、だからってIをどうにかしないと同じ事だと気付いて抵抗するのは止めた。

とにかく1対3だからどうしようもないのだから、2人きりになれば逃げられるはずだと思い、Iの誘いに乗るフリをして、私は初めてなんだからこんな場所ではイヤだと言ってみた。

Iは私が態度をやわらげた事で安心したのか、すっかり気を抜いて、じゃあ保健室に行こうと言った。私はここから出られればなんとかなると思い、軽く頷いた。

生徒会室は職員室からも離れた人気のない場所にある。でも保健室は誰か通る可能性もあった。

私は男3人に囲まれるようにして、保健室までの廊下を歩かされた。

誰か通らないかと期待したが、誰も通らない。

私はIに小さな声で、見張られていたらそんな気になれない、手下の2人は邪魔だと言ってみた。でもそこまでは馬鹿じゃなかったようだ。Iは少しだけ2人を私から離しただけだった。

このまま保健室に着いてしまったら、どうにもならないので、私は職員室の前を通りかかった時、思いきり走って逃げ出した。職員室は左に曲がる廊下のどん詰まりにあって10メートルくらい離れていたし、誰かいるという保証はなかったが、他に逃げる方法を思い付かなかった。叫べばよかったけど、そんな事も思い付かなかった。

職員室に辿り着く前に、私は手下に捕まった。しかしその時、離してと大きい声を出したせいか、残っていた先生がガラッと職員室の扉を開けた。ひ弱そうな30代の男の先生だったが、私は助けを求めた。が、3人の不良は動じていなかった。先生なんか怖くないのだ。

文句あんのかよ、と先生に薄ら笑いを浮かべながら、不良達はすごんだ。ああもうダメだ、そう思って涙が出そうになった時、もう1人先生が現われ、何やってるんだと怒鳴った。知らない先生だったが、体格はよかった。

そして何だ何だと2〜3人の先生が出て来た時、不良は諦めて捨て台詞と共に去って行った。

私は自分が震えている事に気付いて愕然とした。冷静なつもりだったのに、足がガクガクして立てなかった。身体が自然に震える感覚を体験したのは、初めてだと思われた。

何かを大事に思うと人間は途端に弱くなる。もし逃げられなくても、そんな事たいした問題ではないと思えれば、なんとか立ち直れるだろう。この先同じような危険がないとは言えない。そんな時震えずに対処出来るようにするには、執着するものがあってはダメだと思った。それはとても難しい事だった。

震えが止まらない自分が嫌で嫌で仕方なかった。普通のか弱い女の子のように、先生に助け起こされなければ立てないなんて。私はもっと強かったはず。1人で立てますと何故言えない。そう思えば思うほど、震えは大きくなっていた。

しばらく職員室で話を聞かれ、落ち着いた頃、駅まで先生の車で送ってもらった。

この事は誰にも話さなかった。誰に話してもどうせお前から誘ったんだろうと言われるに決まっているし、親に話せばスキがあったと言って怒られるだけだ。

次の日担任のO先生がこれを知り、それから帰りはいつも駅までO先生の車で帰った。が、何もないのにそうすると1人だけ贔屓していると言われるからと、数学委員とかいう役職をつけられ、毎日5時まで職員室に残って、採点やら教材づくりやら手伝わされた。いいように使われている気はしたが、O先生のことは好きだったから楽しかったし、帰りも安全が確保されるし、まあいいやと思った。

O先生は男っぽさの全くない、のほほんとした風貌だった。私は無意識に男っぽい人に恐怖を感じ、避けるような癖がついていたのだった。

今まで危険にさらされた率は他の女性より高いと思うが、もうダメだと思って本当にダメだった事は、1回もないかもしれない。それが私の運かな。運を過信していると痛い目に合うから、用心は怠れませんが。

たぶんこの身構える癖は、おばあさんになっても抜けなくて、さぞ滑稽に見える事でしょうね。

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